Femtech Fes! オンライン Vol.12「産後ケア & 産後うつ」

妊娠期と出産を乗り越えて一段落と思いきや、女性の身体と心には産後も様々な変化が伴います。初めてのことでわからないことだらけだったり、赤ちゃんの世話で手一杯になってしまうと、自分自身のケアまで手が回らなくなってしまう方も…。

そして、出産経験者の多くが経験しているといわれる産後うつ。日本では産後の母体に関する調査結果が少なく、産後うつの実態がわかりにくいという現状があります。そのため、産後うつの情報や治療法にアクセスできず、一人で抱え込んでしまう女性も少なくありません。

今回のイベントでは、20年以上産後うつを研究されている、白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長、海老根真由美先生をゲストにお招きし、産後に起こりうる女性の健康課題を深掘りしていきました。

 

海老根真由美 / 白金高輪海老根ウィメンズクリニック
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター母体胎児部門で、講師及び病棟医長を務めていた。1997年から厚生労働省の班研究に参加してから、産後うつの診療を開始しており、2013年より白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長としてメンタルケアに従事している。

日本では、産後6~8週間を産褥期(もしくは産後期)と呼んでいます。日本における出産後の入院期間は、自然分娩なら5日~1週間程度、帝王切開なら1週間から10日程度であるのに対し、欧米では当日 / 翌日退院が一般的です。
「産後は、産後出血による失血死のリスクもあり、最低でも24時間、安全を考えるなら4~5日は医師や助産師のいる環境が望ましい」と海老根さん。
しかし、医療保険制度を継続的に維持するためにはコストの問題も。各国の制度や方針の違いが明らかになりました。

また、VOGUE JAPAN の動画「2分でわかる、出産後に起こる体の変化」を紹介し、産後の様々なカラダの変化をピックアップしていきました。

中でも後陣痛とは、産後に起こる陣痛(子宮の痛み)のこと。
「赤ちゃんを出産した後も、1リットルほどは子宮が空いているため、元サイズである握り拳大に収縮させなければいけません。その収縮による痛みを後陣痛と呼んでいます」
後陣痛は軽ければ良いものではなく、痛みがあまり無いのは子宮の戻りが悪い状態だそう。母乳をあげるとホルモンの関係で子宮の戻りがよくなることなども教えていただきました。

産後うつとは、分娩後の情動的および身体的な要因によって起こるうつ状態のことです。初期の厚生労働省の班研究の結果で13.8%という数がでたため、日本では "およそ10%前後の母親が産後うつになる" と一般的には言われています。しかし、精神科医が全ての経産婦を診察しているわけではなく、正確な数値を把握することは難しいのだとか。イギリスの有名なスケールを使ったデータでも、全体の3割程度しか把握できていないといわれているそうです。

マタニティブルーと違い、産後うつは自然に改善していくとは限らず、産後1年以上経って発症するケースも。

「産後うつが限られた人に起こる特別なことでは決してないことを知っておいていただきたいです。また、社会の認識が変わっていくことも大切。誰にでもなり得ることなので、産後に気持ちが沈んでも驚かず友人や医師に相談して欲しい。」とのこと。

また、産後うつの原因については、感情をコントロールする脳の神経伝達物質、遺伝、ホルモンの変化、環境などが関連していると言われていますが、はっきりとはわかっていません。

近年の研究により、うつは低栄養、栄養失調だという意見がでてきていることから、産後うつも、早く体型を戻したいと思う社会からのプッシャーが影響しているのかもしれません。

周産期をめぐる心理社会的問題としては、晩婚化・晩産化、出産後に仕事を不本意な理由で辞めなければいけないこと、核家族化、マタハラ、仕事と育児の両立の負担などが挙げられ、時間的・経済的・心理的余裕がないために子どもを産み育てにくい社会になっているのではないかと考えられます。さらに、母親のうつに関連して、父親のうつや男性が受けられるサポートについても話し合いました。
では、産後うつにならないためには何ができるのでしょうか。海老根先生にお伺いしました。

「環境因子なのか、ホルモンの影響なのかもはっきりしていないので、予防方法を確立することも難しいのが現状です。しかし、社会復帰の時期が遅れてしまうとうつになりやすいなどのことから、復帰までのスケジュールは余裕を持って立て、早く落ち着いた場合は予定を前倒しにするなど、(予定通りに復帰できないといった)ネガティブ思考に陥りやすい状況を作らないようにする対処は可能です。」

また、治療については、「私の経験上、保険がきく範囲内の治療、つまり精神科で抗うつ薬を処方してもらうような方法より、保健所や保健センターでのメディカルサポートの方が現実的なように感じます。近年は、育児放棄を未然に防ぐため児童相談所の意識も変わってきています。保健師さんが常在していますので、まずは相談することが解決に繋がるでしょう。」と教えていただきました。

イベントの最後には、世界各国の「産後の女性をサポートする Femtech ソリューション」もご紹介しました。

 

Elvie Trainer
骨盤底にまつわるトラブルに着目し、出産後の母体の骨盤底筋を鍛えるスマートデバイス。
力覚センサが骨盤の動きを測定、アプリと連動してゲーム感覚でトレーニングできる。

Elvie Pump
世界初のウェアラブル搾乳機。授乳用ブラの中に装着して使用する。
Bluetooth でアプリと連携し、スマホで操作、搾乳量&搾乳履歴のトラッキングができる。

Lilu
搾乳をサポートするマッサージブラ。
張りすぎや詰まりによる痛みや乳腺炎のリスクを防止。現在医療機器として改良中。

iBreve
ブラに装着するウェアラブルデバイス。
呼吸パターン、アクティビティレベル、ストレスレベルを計測したデータをスマホに転送。アプリ上でストレスレベルを可視化、ストレスを和らげる呼吸法などの情報を提供してくれる。

Peanut
母親のための「Tinder」。
共通点を持った友だち探しにフォーカス(相手が話せる言語、フルタイムで仕事をしているか、アウトドアタイプか、子どもの年齢 etc.)、お互いのカレンダーを同期して、都合のあう時間帯を見つけ出してくれる。

母親になっても働ける職場情報を交換できるコミュニティ等も。

Maven Clinic
オンライン上で母親が健康や医療について医療従事者に相談できるプラットフォーム(授乳コンサルタント、睡眠コーチ、メンタルヘルス・スペシャリスト、キャリアコーチ、小児科医、母乳のデリバリーサービス etc.)。Maven Clinicメンバーの90%が職場復帰(米国平均値:57%)

 

自動で搾乳やマッサージをしてくれるプロダクトなどは、試してみたい方も多いのではないでしょうか?

産後うつに関しては、まだまだ解明されていないことも多く、社会的な問題でもあると感じるイベントでした。このイベントを通じて、出産を経験された/される方やその周りの人が、少しでもご自身に合ったサポートを見つけられるきっかけになれば嬉しいです。