Vol.4 Impli|見えなかったホルモンを、線で理解するということ

2026年2月22日

Impliは、体外受精(IVF)患者向けに開発されている皮下埋め込み型ホルモンモニタリングセンサーです。本記事では、従来の“点”でのホルモン測定と比較し、連続データが医療体験をどう変えうるのかを解説します。

本日ご紹介するImpli公式サイトはこちらからご覧いただけます。

小さじ一杯の変化を、はじめて“流れ”として見る時代へ


① 小さじ一杯の違和感

女性ホルモンの総量は、小さじ一杯ほどだと言われています。
そのわずかな量が、私たちの体温や気分、集中力にまで影響する。
それなのに、私たちはその変化をほとんど“知らない”まま生きている。

私がMistletoeで国内外のヘルステック企業への投資を担当していた頃、ずっと考えていたことがあります。
ホルモンを、非採血で、連続的に測れないだろうか。

当時、自宅で指先に針を刺して血液を採る検査キットが出始めていました。
私も試しましたが、小さな針なのに怖くて、ひとりではうまくできなかった。

そして何より、それは“点”のデータでした。その瞬間の値だけ。

身体は一日中、波のように変化しているのに、私たちは断片でしか理解していない。
この違和感が、ずっと心の奥に残っていました。

② Impli, それは“埋め込むセンサー”という選択肢

Impliは、体外受精(IVF)を受ける女性のために開発されている、皮下に埋め込む小さなセンサーです。

一言で言えば、ホルモンを“連続で測る”ための医療技術。

30日間の治療サイクルに合わせて体内に留まり、特定のホルモンの変化をリアルタイムで記録します。これまでIVFでは、通院のたびに採血をし、その日の数値をもとに判断してきました。

Impliは、その前提を静かに問い直します。
埋め込む、という言葉は少し緊張を伴います。
でもその先にあるのは、断片ではなく、流れとして身体を見るという発想です。

③ 当たり前だった採血という前提

IVFは、ホルモンの繊細なコントロールが治療の鍵になります。
だからこそ、通院と採血が繰り返される。

この構造は長年、当然のものとして受け入れられてきました。
けれど身体は、常に連続的に変化しています。

私たちはその一部だけを切り取り、点と点を想像で結びながら治療を進めてきた。
測定の方法が限られていたから、医療の設計もその枠内で組み立てられてきた。

Impliは、まさにその“測定の設計”を見直そうとする試みです。

④ 測定の設計が変わるとき

新しさは、数字の多さではありません。
体験がどう変わるか、です。

連続データがあれば、ホルモンの動きを流れとして理解できる。
採血の回数が減れば、身体的な負担も、通院に伴う緊張も変わるかもしれない。
医師にとっても、より細やかな変化に気づく余地が広がる。

公衆衛生の視点で言えば、「何を、どの頻度で、どう測るか」は介入の質を左右します。
測定の設計が変われば、医療の構造も少しずつ変わっていく。
それは派手な革命ではなく、静かな更新です。

⑤ テクノロジーは何を取り戻すのか

私は、“エンパワーメント”という言葉を簡単に使いたいと思いません。

でも、負担を減らし、不確実性を少し具体的にし、選択肢を増やす技術には意味があると思っています。

連続ホルモンモニタリングの可能性は、IVFにとどまらないかもしれません。
更年期におけるホルモン補充療法。そして、性別移行に伴うホルモン治療(一般論)など、ホルモンを長期的に管理する医療の文脈。

こうした領域でも、“点”ではなく“流れ”で理解できることの意味は大きいはずです。
小さなデータが積み重なれば、医学の理解そのものも少しずつ更新されていく。

ただし、このような技術が実際に医療現場で使われるまでには、長い時間と多くの臨床検証、そして資金が必要です。

女性の健康に関わる技術は、歴史的に見ても、十分に投資されてきたとは言いがたい分野です
それでも、Impliの開発者たちのように挑戦を続ける人たちがいる。
その姿に、私は静かな希望を感じています。

⑥ 日本の文脈で考える

日本では、2022年から体外受精が保険適用になりました(年齢や回数など一定の条件があります)。それでも、通院や採血の負担は依然として存在します。

もし連続モニタリングが実用化されたら、医療現場の運用はどう変わるでしょうか。
保険制度はどう対応するのか。データの扱いはどう設計されるのか。
すぐに広まるとは限りません。
でも、この問いは大切です。

女性の身体を、断片ではなく流れとして理解する。
それは、私たちが自分の身体とどう向き合うかという前提を見直すことでもある。
小さじ一杯の変化を、線として見る。

その静かな転換点に、私たちは立っているのかもしれません。
そして、その変化をどう受け止めるかは、これからの私たち次第なのだと思います。

 


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