Vol.5(後編)kegg|医療機器にできない?それでも諦めなかった。keggと日本制度のあいだで向き合い続けた10年
キーワード:一般医療機器/妊活デバイス/医療機器届出番号/社会実装
プロダクトは、作るだけでは届かない
いくら良いプロダクトでも、作っただけでは社会に広まりません。
特に女性の健康に関わる製品は、
制度と文化の壁にぶつかります。
keggも例外ではありませんでした。
まずは、制度の壁。
腟内に入れるデバイス。
排卵期の目安を示す可能性がある。
日本では、どの分類になるのか。
医療機器か。
それ以外か。
簡単ではありませんでした。

(2017年、Kristinaと出会った頃、keggの撮影会に参加した)
一般医療機器という選択
私は、keggを日本に持ってくると決めたとき、まず厚生労働省に相談に行きました。
アメリカではFDAクラス1の医療機器。
でも、日本には日本の判断基準があります。
腟の中に挿入するデバイス。
「雑品では?」
「プレジャーグッズ扱いでは?」もしそうなれば、効能効果はもちろん、安全性や品質についても適切に伝えることが難しくなります。
一方で、管理医療機器になれば承認のハードルは高くなり、販売までに時間もコストもかかる。
その結果、本当に必要としている人に届きにくくなる可能性がある。
私は考えました。
これは医療機関専用のものではなく、家庭で使える選択肢として社会に置きたい。
しかし当時の日本の薬機法には、keggのような製品を想定した枠組みがありませんでした。
医療機器にしたくても、その分類が存在しない。
そこで私たちは、粘り強く議論を重ねました。
議員の方々にも協力いただき、議連を立ち上げ、
厚生労働省の皆さまとも対話を重ねました。
そして2023年、
「家庭用頸管粘液測定器」という新しい一般的名称が薬機法上に新設されました。
2024年には一般医療機器として届出を完了。
2026年5月から、日本でも販売開始予定です。
規制を避けるのではなく、
規制の中で、最も合理的な場所を見つける。
それが、私たちが目指したかたちでした。
(2022年 加藤厚生労働大臣と)

(2024年 齋藤経済産業大臣と)
日本の妊活の現実
日本は体外受精件数が世界トップクラス。しかし成功率は決して高いとは言えません。

(出典:ICMART World Report 2016(International Committee for Monitoring Assisted Reproductive Technologies))
初産年齢は上昇し、
共働き世帯は増え、
通院の負担は大きい。
その多くを女性が引き受けています。
問題は費用だけではありません。
- ✔︎早く自分の状態を知ること
- ✔︎必要な医療に進むタイミングを判断すること
- ✔︎不要な負担を減らすこと
この導線が整っていない。
keggは治療ではありません。
でも、
治療の前段階を整える可能性があります。
データの未来
keggは今日、世界最大規模の頸管粘液データを持つ企業へと成長しました。
これは単に「データが多い」という話ではありません。
頸管粘液は、ホルモンの変化を反映する生体サインです。
月経周期の中で変わり、妊娠を考える時期だけでなく、
産後や更年期前後のホルモンの揺らぎとも関係しています。
もし、そうした変化を“点”ではなく“線”で積み重ねていくことができたら。
・自分の周期の傾向をより早く理解すること
・産後のホルモンバランスの変化に気づくこと
・更年期に向かう揺らぎを、自分の言葉で説明できること
そうした可能性が、少しずつ見えてきます。
さらに、大規模データとAIの組み合わせによって、
これまで個人の感覚として語られてきた体の変化が、
統計的な傾向として整理されていくかもしれません。
たとえば、
食生活やストレスと頸管粘液の変化の関係、
周期の揺らぎのパターン、
ライフステージごとの変化の幅。
医療機関や研究機関でも十分に持ち得なかった日常のデータが、
いま、生活の中から集まり始めています。
ただし、データは万能ではありません。
データは身体を置き換えるものではない。
あくまで補完するものです。
数値と感覚の両方を尊重すること。
そして、
透明性があること。
誤解を生まない設計であること。
必要なときには医療と適切につながること。
それがあって初めて、データは価値を持ちます。
最後に
2017年に出会ってから、約10年。
それは技術の時間というより、
構造を動かす時間でした。
女性の健康を特別なものとして切り分けるのではなく、
日常の延長線上に置く。
正しい道具と、正しい枠組みを整える。
妊活を「頑張るもの」とし続ける社会と、
「続けられる設計」を増やす社会。
どちらの未来が、より静かで、持続的でしょうか。
私は、まだ問いの途中にいます。
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